二、帰領
その日、ツェアフェルト子爵ヴェルナーは婚約者を伴って、ツェアフェルト侯爵家領都であるツェアブルクへ出立した。
スタンピード以降、様々な戦いと陰謀、魔王の討伐。それに続く後始末と論功行賞。国内外の情勢調査と慌ただしい月日が続き、ツェアフェルト侯爵も嫡子たる子爵も長らく領地へ帰る暇はなかった。
しかし、魔王討伐以降の情勢の変化に合わせた対策と立案にある程度目途が立ち、少し落ち着いてきたあたりで一度領主一族である侯爵自身か嫡子のヴェルナーが領地の視察と引き締めも兼ね、短期間ではあるが帰領するという話になり、ヴェルナーが向かうこととなったのだ。
落ち着いてきたとはいえ、さすがにまだ典礼大臣を帰領させるのは難しい。陞爵したばかりということもある。
魔王討伐後の懸念対策の中心人物たるヴェルナーを向かわせるのもできれば避けたいところであったが、ツェアフェルト家には領主一族が少なく代わりになる者がいない。
ヴェルナーに見るからに疲労がたまっていたので休養がてら、という理由もあった。
それに加え、ヴェルナーが懸念していた自然災害の予兆が見え始めていたこともある。
まだ災害と言うほどではないが、大雨が続いて小規模ではあるが川の氾濫が起きた、夏の暑さが続いて作物の収穫に影響が出た等の報告が国内各地から上がってきたのもあり、ヴェルナーは一度領地を見回りたいと希望した。
結局のところ休養にはなりそうもなかったが、王城で執務に追い立てられるよりはましだ。
婚約者であるリリーに、結婚前に一度は領地を見せたいという思いもあっただろう。
帰領前にいつも以上に仕事を詰め込み、片づけておくこともあったがそれ以上の懸念もなく帰領の日を迎えたのだった。
ところが王都を出たところで馬車に不具合が見つかりヴェルナー一行は王都邸へ引き返す。
二日後、再度準備を整え一行は改めて領地へと出立した。というのが表向きの出来事。
実は馬車の不具合ではなく、魔将殺し、救国の英雄と称えられる子爵へ危害を加えようという不逞の輩が現れ、返り討ちにされたが、襲撃の際に馬車の車輪が破損したため、一度引き返し、更に警護を見直し再出立したらしい、という話が実しやかに流れた。
が、それも裏事情を装った表向きの話しであった。
ヴェルナー一行が王都邸へ引き返したその日の日没直後、聖女でありヴァイン王国第二王女であるラウラが密かにツェアフェルト邸を訪れ、夜明け前には王太子ヒュベルトゥスが来訪していた。
次こそ殿下サイド…。
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